37人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
何も望んではいない。
ただ安穏とした毎日をおくれれば、それでよかったんだ。
「……朝、か」
小鳥の囀りが心地よく響くなか、僕は静かに目を開けた。
薄汚れた四方を囲う壁。
木目すら消えかかった、草臥れた我が家の一室。
埃っぽいベッドのスプリングは傷みに傷んで、所動作に過敏な反応をする。
実に耳障りだが、直しはしない。
妹が……アリアが生きていたのなら、家中に怒号がひびきわたっただろう。
だが、アリアはもういない。
……よそう。これ以上は考えたくないし。
「……仕事、行こうかな」
気だるさの残る体を起こし、僕はベッドから降りてクローゼットを開けた。
安物の白いTシャツと、黒い長ズボンを穿き、朝食もとらずに家を出た。
最初のコメントを投稿しよう!