第一章 魔女と僕

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何も望んではいない。 ただ安穏とした毎日をおくれれば、それでよかったんだ。 「……朝、か」 小鳥の囀りが心地よく響くなか、僕は静かに目を開けた。 薄汚れた四方を囲う壁。 木目すら消えかかった、草臥れた我が家の一室。 埃っぽいベッドのスプリングは傷みに傷んで、所動作に過敏な反応をする。 実に耳障りだが、直しはしない。 妹が……アリアが生きていたのなら、家中に怒号がひびきわたっただろう。 だが、アリアはもういない。 ……よそう。これ以上は考えたくないし。 「……仕事、行こうかな」 気だるさの残る体を起こし、僕はベッドから降りてクローゼットを開けた。 安物の白いTシャツと、黒い長ズボンを穿き、朝食もとらずに家を出た。
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