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それからしばらくはまた会わない日が続き、燃えるゴミの日の朝だけ姿を見せた。
結局は何をしている人なのか分からないままだ。
意気投合したからといってお隣に訪ねていくのも違う気がしたし、相変わらず同僚からは「やっぱり怪しいよ」と言われて続けていた。
それから数ヶ月過ぎた休日。見知らぬ男の人が訪ねてきた。
スーツ姿の長身の男性。髪は癖っ毛の短髪で、黒ぶち眼鏡をかけている。
「あの……どちら様ですか?」
「えっ? えと、隣の……」
そう言って指差した先は、例の怪しいお隣さんの部屋。
「えっ!? うそ!? お隣さん!?」
「ああ、こんな格好してるから……。今日は出版社に用があったんですよ」
照れ臭そうに言うその仕種と声は、確かにお隣さんのものだった。
「嘘みたい……」
こざっぱりとした格好のお隣さんは、そこそこのイケメンに変身してしまっていたのだ。
「ううん……。第一印象、悪すぎたかな?」
「えと、それは……」
肯定も否定も出来ず戸惑っていると、スッと目の前に本が差し出された。
「えっ?」
「まだ書店に並ぶ前のものだけど、あなたに読んでほしくて」
受け取って良く見ると、著者名のところに『有沢悠司』とある。
「これ。有沢悠司の最新刊? でもなんで?」
「さっき、出版社に行ってもらってきたんです。本、好きだって言ってたでしょ?」
「言いましたけど……。あの、出版社にお勤めなんですか?」
「いや……。僕の本です」
「はい?」
「僕が書いた本なんです。これ」
「え、ええ~っ!?」
なんと、お隣さんはあの『有沢悠司』その人だったのだ。
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