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怨念
深い山間にある為、訪れる人もほとんどなく独自の文化を持った痣渓村(あざけいむら)。
昭和20年、戦争末期。
空襲を知らせるサイレンが鳴り響く。
初めての空襲に、村は騒然となった。
「防空壕に逃げて下さい」
マイクから聞こえる声に、農作業をしていた村人達は一斉に、村に一つしかない防空壕に向かって走り出す。
痣山圭子も腰の曲がった母を支えながら、防空壕まで急いだ。
途中何度も転びそうになりながら、防空壕にやっとの思いでたどり着き、中に入った。
防空壕の中は騒然としていた。
「こんな山奥にまで空襲があるなんておかしいじゃないか」
「十字のアザのある赤ん坊、八重のせいか!」
防空壕の中で村人が騒いでいる。
痣渓村には
『十字の痣のある子は村に凶をもたらす』という言い伝えがある。
圭子は、美知子がまだ防空壕にきてない事に気づいた。
今、美知子が防空壕に来たら、大変な事になる。
たしか、美知子は実家に戻っていたはず。どうかここに来ないで!
圭子が心の中で祈っていた時、赤ちゃんを背中に背負った痣渓美知子が防空壕の入口にやって来て、「中に入れてください」と言った。
「入るな!
村に凶をもたらす赤ん坊をこの中にいれる訳にはいかない。
八重をどこかで始末して戻ってくるか、2人でどこかに行くかを選んでくれ」
村長が美知子に向かって冷たく言い放った。
「お願いします。
八重を殺すなんて出来ません。
お願いします。防空壕に入れて下さい」
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