怨念

1/8
1474人が本棚に入れています
本棚に追加
/526ページ

怨念

深い山間にある為、訪れる人もほとんどなく独自の文化を持った痣渓村(あざけいむら)。 昭和20年、戦争末期。 空襲を知らせるサイレンが鳴り響く。 初めての空襲に、村は騒然となった。 「防空壕に逃げて下さい」 マイクから聞こえる声に、農作業をしていた村人達は一斉に、村に一つしかない防空壕に向かって走り出す。 痣山圭子も腰の曲がった母を支えながら、防空壕まで急いだ。 途中何度も転びそうになりながら、防空壕にやっとの思いでたどり着き、中に入った。 防空壕の中は騒然としていた。 「こんな山奥にまで空襲があるなんておかしいじゃないか」 「十字のアザのある赤ん坊、八重のせいか!」 防空壕の中で村人が騒いでいる。 痣渓村には 『十字の痣のある子は村に凶をもたらす』という言い伝えがある。 圭子は、美知子がまだ防空壕にきてない事に気づいた。 今、美知子が防空壕に来たら、大変な事になる。 たしか、美知子は実家に戻っていたはず。どうかここに来ないで! 圭子が心の中で祈っていた時、赤ちゃんを背中に背負った痣渓美知子(あざけいみちこ)が防空壕の入口にやって来て、「中に入れてください」と言った。 「入るな! 村に凶をもたらす赤ん坊をこの中にいれる訳にはいかない。 八重をどこかで始末して戻ってくるか、2人でどこかに行くかを選んでくれ」 村長が美知子に向かって冷たく言い放った。 「お願いします。 八重を殺すなんて出来ません。 お願いします。防空壕に入れて下さい」 25d06817-c3cb-4892-8b86-3f0c264fe095
/526ページ

最初のコメントを投稿しよう!