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止血を終え、男を壁際へと移動させて、改めて私は室内を見渡した。物が極端に少ない部屋。窓際のテーブルに置かれたわずかな私物。その中で異質な存在を放つ望遠鏡に暗視カメラ。
あぁ、そういうことか。
全てがわかった私は、とにかく今は仕事が先だと、スマホを取り出し上司に連絡をとる。
「…………はい、私ではありませんが、ばれました。…………はい、至急応援願います」
手身近に報告を終えると、私は窓を見た。無惨に割れた窓ガラス、破れたカーテン。そんな非日常の光景にも関わらず、私の思考は冴え渡っていく。全ての疑問が解けていた。今負傷して真っ青な顔をしている男も、この前引っ越して行った男も、その前の入居者達も、おそらくみな同じ職場の人間だったのだろう。そして、所属する組織は異なるもののやっていたことは私と同じ。ただし、たった一人でターゲットを監視していたのに対し、彼らは交代制でこの任務にあたっていた。でも…………
「いくらなんでも交代期間が身近過ぎるでしょ…………怪しまれて当然よ」
彼らのせいでこっちの仕事まで台無しだ。ため息を吐きながらも、私は自らのジャケットの中に手を突っ込む。とにかく応援が来るまではなんとか持ちこたえなければ。
「君は…………」
苦しそうな息づかいの中そう訪ねてくる男に、私は拳銃を構えながら答えた。
「たぶん、お仲間よ」
…………もう大丈夫です、理由はわかりました。隣人は、同業者でした。
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