第1章

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山上素子、23歳。爬虫類両生類を扱うペットショップ、その名も「爬虫・両生ショップ」(そのまんま)のオーナー。 店内には、爬虫類を代表するリクガメのジョー太郎さんをはじめ、両生類を代表するカエルの仙人などなど・・その数50種、250匹。 山上素子さんは、今日も涼しい顔をしながら、アナコンダのベビーにコウロギを与えている。「美味しい?そう、え!?そんなことが・・ったく・・喧嘩しちゃだめよ~」などど、呟く声が聞こえる。 本人は否定しているが、あれ、絶対あいつらと会話している。だって、ヘビも心なしか、首をうんうんと縦に振っているように見えるし、オオトカゲのドラオに至っては、山上素子さんの後をつけ回し「ドラオは甘えん坊さんね~」なんて言われて、ニヤリと笑っているじゃないか!? ここに来るお客は、大抵こういう生き物大好きなオタク達だが、もちろん山上さん本人のファンでもある。ほっそりとした体に、やや緑かかった黒髪がなびく、日本美人。黒目がちな瞳に見つめられたら、トカゲじゃなくたって後をつけまわしたくなる。 群がるお客たちのためにショップの奥は喫茶コーナーになっており、爬虫類や両生類を眺めながら、お茶やケーキをたしなむこともできるのだ。そして、山上素子さんはそんなお客たちと一緒にお茶を飲みながら、これらの生き物について親切丁寧に解説してくれるのだ。もちろん膝の上には、今年生まれたばかりというニシキヘビがどくろを巻いて居座っている。 そのニシキヘビが、山上素子さんを見上げ、舌をシャーシャーシャーと三回出した。その様子を見た彼女は「あらあら、もうそんな時間?ごめんなさいね・・」と言ってヘビを抱えてケースの中に入れ、一緒にハツカネズミを投入するのだ。 ニシキヘビが、ネズミを丸呑みしている姿を、聖母のような微笑みで眺める。 足元に現れた、リクガメのジョー太郎さん(このカメは売り物ではなく、看板娘ならぬ、看板カメなのだ)には「よいしょ」という軽い掛け声と共に白菜丸ごと3玉をトレイの上に置き「ジョー太郎さん食べ終わったら、いつものアレね」などと言うのだ。いつものアレってなんだー!!??  やっぱり、会話してる!絶対、あの人はあれらと会話してる!! 我々は、今日も素子さんを観察するのだ。
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