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私の言葉に返事をしないくせに、
視線は私の顔で留まっている。
やっぱり、
彼の視線は苦手だった。
私は彼からの視線を遮るために前髪を斜めに流す仕草をしながら
「社長は奥にいらっしゃいます」
などと、当たり前のことを言った。
少しでも早く、彼を自分から遠ざけたかったから。
それでも少し間が空いたので、私は彼の前を通り過ぎ、奥のドアをノックした。
「社長、徳島部長がお見えです」
私は扉を開けて、強制的に彼を追いやろうとした。
すると、
彼は私の前を通り過ぎる瞬間、珍しく私に声を掛けてきた。
「今日は社長にいい話を持ってきた」
初めて間近に聞く彼の声に、
私も初めて彼に向けて顔を上げた。
「君にとってもいい話だ」
語尾を聞き終わらないうちに
目の前のドアは静かに閉じていた。
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