社長の右腕

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駅までの道のりを おぼつかない足取りでゆっくりと進む。 私の細いヒールの高い音に重なるように 少し低い革靴の音が横に並ぶ。 春の夜はまだ肌寒く、 アルコールで火照った身体も風が吹くたびに熱を奪われそうだった。 駅に着いて、最初のエスカレーターを二人で上がる。 一段上になった布川さんが後ろを振り返って私を見つめていた。 ……そんな顔、しないで。 私はその視線にも気付かないフリをする。 「布川さん、眠そうですね?遅くまで付き合わせてごめんなさい。今日は帰ってゆっくり休んでください」 彼は口元だけで小さく笑い、 わずかに頷いただけだった。
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