社長の右腕

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その日、 定時を回って秘書課の面々がいつも通りに集団でロッカー室に移動すると、 その場に残った私に室長が声を掛けてきた。 「安藤君、ちょっといいかな」 「はい」 「外に出てもいいけど、運よく二人になれたし、まだ彼女たちが社外に出るには時間が掛かるだろうから」 「……かもしれませんね」 私は布川さんの席から一番近いデスクに移り、椅子を引いて布川さんに身体を向けた。 布川さんは話を始める前にあの時のようにため息を一つついた。 それは、私と二人になるまで、我慢していたものに違いなかった。 「コーヒー、淹れて来ましょうか?」 「いや、いいよ」 布川さんはそう言ってリクライニング式のイスの背もたれに深くもたれた。
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