社長の右腕

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「本当にここは『素敵な店』でしたよ」 店を出る前に店主に告げた。 「そうかい。オンボロでよかったらまたおいで」 店主は忙しなく手元を動かしたまま顔だけを私に向けた。 「おやすみなさい」 上機嫌な私は少し可愛い子ぶってにっこりと笑顔をつくると、店主は小さく頷きながら私を送り出してくれた。 「はーあ。気持ちいいーー!!」 私は空に両手を突き出して、伸びをしてから歩き出した。 毎晩一人で飲む缶ビールだって捨てたもんじゃないけれど、 それとは比べ物にならないくらい後味が良かった。 私が布川さんの歩調に合わせるのではなく、 彼が私に合わせてくれていた。 「私、室長の部下で本当に良かった」 私は本心から噛み締めるように言った。
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