887人が本棚に入れています
本棚に追加
「本当にここは『素敵な店』でしたよ」
店を出る前に店主に告げた。
「そうかい。オンボロでよかったらまたおいで」
店主は忙しなく手元を動かしたまま顔だけを私に向けた。
「おやすみなさい」
上機嫌な私は少し可愛い子ぶってにっこりと笑顔をつくると、店主は小さく頷きながら私を送り出してくれた。
「はーあ。気持ちいいーー!!」
私は空に両手を突き出して、伸びをしてから歩き出した。
毎晩一人で飲む缶ビールだって捨てたもんじゃないけれど、
それとは比べ物にならないくらい後味が良かった。
私が布川さんの歩調に合わせるのではなく、
彼が私に合わせてくれていた。
「私、室長の部下で本当に良かった」
私は本心から噛み締めるように言った。
最初のコメントを投稿しよう!