彼の思惑

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正直に言って、役員一名に秘書一名では 秘書である社員は時間を持て余してしまうのだ。 幸い、私は社長秘書なので仕事量もそれなりにあり、定時内は暇を感じている余裕もない。 けれど、それほど大きな動きがない役員になると、秘書の仕事も必然的に減ってしまう。 業務時間内にそれぞれが何をしているのか、私自身も疑問だった。 今回の人事調整では秘書課から二名を他の部署に異動させなくてはならないとのことだった。 その二名を選出しなければならないことは、 彼にとっては気が重い仕事かもしれないけれど、 彼がそこまで深いため息をつく必要は感じられなかった。 「それで……、室長は何をそんなに悩んでらっしゃるんですか?」 私が言うと、布川さんは私を見つめた。 「そりゃ、悩むよ。二名を選ばなきゃならないのは仕方ない。だけど、あの男はその内の一名に君を指名してきた」
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