迷いの夜

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「謝らなくていいけど……」 布川さんはそこでため息にも似た小さな息をついた。 「冷たい上司のことを、楽しそうに話すんだね?」 布川さんには珍しく、少し嫌味の入った言い方だった。 明らかに彼はそのことが面白くなさそうだった。 「ごめんなさい……」 私は謝りながら何に謝っているのか少し疑問だった。 「気分が良くなっちゃって、少ししゃべり過ぎました……」 「別にいいんだよ。いいんだけど……。 俺の嫉妬心、随分と煽(アオ)ったね」 彼は真顔で言いながら、口元だけが笑っていた。
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