グレーの扉

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布川さんから電話があったのは、その日の午後九時頃だった。 私はバスタブにお湯を張り、入浴の準備をしていたところだった。 『遅くにごめん。もう少し早くに掛けるつもりが社長と一緒だったんだ』 「お疲れさまです。接待ですか?」 『ああ、ちょっとした会食で今社長を送ったところだ』 「……そうですか」 私はベッドに腰を降ろした。 少しの沈黙が騒がしい。 『今日は……すまなかった』 私は黙って首を横に振った。 『君と徳島部長のことを妙に勘ぐってしまって……。 廊下で二人を見たら……嫉妬してしまった』 布川さんの後悔は声色で伝わる。 今頃髪の毛をぐしゃりと鷲掴みにでもしているかもしれない。 「私と部長は……全くそんなのじゃないですよ」
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