グレーの扉

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部長は「あぁ、今日か」と、今思い出したかのように呟くと、胸元に手を入れた。 そして、長財布を取り出すとそこからお札を二枚ほど抜き取って小泉さんに差し出した。 「少しだが足しにして楽しんで来てくれ」 すると、彼女はそれを受け取る前に身を乗り出した。 「今日は安藤さんの歓迎会ですし、部長にもぜひ来ていただきたいんですけど」 彼女の言葉に他のみんなも「そうですよ」と賛同した。 そして、小泉さんが急に私に顔を向けた。 「安藤さんも部長には来て欲しいですよね?」 突然話を振られて目を丸くしてしまった。 「え、あ、はい。ぜひ、来て、いただき……たいです」 私はしどろもどろに返事をした。 すると、部長が目つきを研ぎ澄ますように薄らと目を細めて私を見た。 「本人はあまり来て欲しそうにないが」
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