グレーの扉-2

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「ああ、それは嘘だ」 「……え?」 「本来俺は長期休暇以外での休日出勤には反対だ。 物理的なもの以外に仕事が平日の一週間に納まっていないのならどこかに問題があると考えていい。 人員が足りないのか、仕事の効率が悪いのか、指示のミスか、要因はいろいろだ」 真顔で淡々と話す部長に私はあからさまなため息をついた。 「部長……。何が嘘で何がホントかわかりません……」 「……嘘だってホントだって、どっちだっていいだろ?」 「そうでしょうか……」 「嘘も方便。ついていい嘘だってある」 「ついていい嘘なんて……」  知らず知らず鼓動が速まっていた。 「他人にとって嘘が必要な時だって時にはある。自分にとっても同じだ」  私が目を伏せていると部長はまるで念押しするように言った。 「自分にとって必要な嘘ならば、堂々とつけばいい。後ろめたく思う必要なんてない」 心臓が大きく飛び跳ねた。 飛び跳ねた心臓が鷲掴みにされて胸の奥が痛かった。
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