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「……酷い寝癖だな。それ以上に顔は酷い」
「み、見ないでくださいよ」
私は両手で髪の毛を撫でつけて取り繕った後、手のひらで顔を覆った。
そんな風に言われながらも私が部長から離れなかったのは、部長の手元からいい匂いが漂っていたからだ。
「……いい匂い」
その匂いを思い切り吸い込みたくて、いつの間にか隠すのも忘れて鼻を突き出す。
「焼き上がりに合わせて起きて来るとはさすがだな」
「スクランブルエッグですか?」
「カマンベールチーズ入り」
部長がフライパンを持ち上げて、慣れた手つきでプレートに盛り付けた。
「美味しそう!」
私が小さく叫んだところで、至近距離で視線がぶつかる。
部長が私を見つめたまま動かないので、私はハッとして寝室に戻ろうとして部長に背を向けた。
すると、部長が私の腕を掴んで行く手を阻(ハバ)んだ。
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