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熱気の溜まった室内で鳥肌が全身を覆っていく。
『人違いです』
その言葉が喉元まで出かかっているのに口を開くことも出来ない。
この前みたいにめまいが襲ってくることはないけれど、今、ここで意識を失えるのなら
その方が楽なのかもしれないと思った。
「……時間……」
張り付きそうな喉の奥に空気を含んでかすれた声で彼に聞く。
小さく震える指先がペン先をカツカツとデスクを細かく叩いていた。
「こんなところで会うなんて……もしかして運命かな?」
彼の言葉は冷水みたいに私の全身に降りかかって全身が冷えてくる。
持っていたボールペンを持てなくなって、デスクにペンが転がった。
「大丈夫だよ。誰にも言ってないから」
彼はペンを離した私の右手を握った。
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