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悲鳴をあげようにも声も出なかった。
私は彼の手を振り払って何とか動く足で慌てて出入り口のドアに向かった。
もつれた足でなんとかドアに辿り着くと再び恐怖が湧き上がる。
目の前にドアはあるのに、この扉は簡単には開かない。
「ちょっと待ってよ」
背後から彼の声がする。
ドアの前でもたついていると、あっという間に彼に追いつかれた。
「ここのドア、内側から開ける時も暗証番号でキーを解除しないとダメなんだよ。それに……」
彼がじりじりと距離を詰めてくる。
「ほら、大事なもの忘れてる」
彼は私の手を取ってデータを保存したメモリを私の手のひらに握らせた。
恐怖で膨れ上がった涙腺から涙が零れる。
「どうして泣くの?」
彼は私の頬を撫でた。
すると、私は瞬(マバタ)きまで出来なくなった。
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