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そんな私を見つめながら彼は一歩後ずさった。
そして、両手の親指と人差し指で歪んだ四角形を作ってその向こうから私を覗く。
「泣いた顔もいいね」
彼の目はその四角形の中で笑った。
「……開けて」
あの時、まさか拷問部屋かと冗談のように言っていたけれど
ここは……
拷問部屋よりも恐ろしいところだった。
「……開けてください」
「ねえ、ここ。見ての通り俺一人。まあ、トラブルがない限り暇だしね。最初は何人かいたんだけど、ここにいるとみんな気が滅入っちゃうみたいでさ。誰も長続きしないんだ。俺にとっちゃ、こんなにいい職場ないけどね」
そして、彼は続けた。
「まさか君がこの業界にいると思わなかったよ。
……クセになった?」
「開けてっ!!」
彼は薄らと笑いながらロックを解除した。
私は転げるように部屋を飛び出した。
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