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それは初めての不思議な感覚だった。
見知らぬ男女がホテルの一室で、お互いの素性は明かさずただ話すだけ。
初対面とは思えない親しげな彼の話し方は私から恐怖心を取り除き、緊張していた私の身体を徐々にほぐしていった。
途中で喉が渇くと、彼は何の迷いもなく冷蔵庫から飲み物を出してくれた。
ペットボトルに口をつけると、彼は横からそれを眺めていた。
「君は……やってないの?」
「……え?」
「やったら、結構人気出ると思うけど」
彼に顔を向けて、その後すぐに首を大きく横に振った。
「や、やってません!やってないです!!」
私は思い切り否定した。
けれど、その後、小さな後悔が私の胸をチクリと突き刺す。
私の態度は彼女自身さえも否定してしまったからだ。
彼女は……
……私には出来なかったことをやり遂げようとしているのに。
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