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……私は、自分の母親を中学三年生の時に亡くしている。
進行性の大腸がんで、気付いた時にはもう手遅れだった。
もっとも、母自身はもっと早くに気付いていたかもしれないけれど。
思春期真っ只中の私は母を気遣うことよりも、入退院や通院、家で寝込む母を見て、自分が周りのみんなのように自由になれないことに苛立っていた。
決して、表には出していないつもりだったけれど、母には伝わっていたのだと思う。
母を励ます言葉の裏にそんな気持ちが滲んでいたのかもしれない。
それを証拠に母もそんな私には自分の辛さを零すことも出来ず、いつも申し訳なさそうに「ごめんね」と、言っていた。
昔話を回想して思わず涙が込み上げてきそうになる。
それを誤魔化そうと、私は手のひらで目元を煽いだ。
「暑い……」
彼はぼんやりと私を見ていた。
「一枚脱げば?」
そして、私もぼんやりとそれを聞いていた。
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