過去との対峙

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結局、私は母には何もしてあげられなかった。 だけど、彼女は私には出来なかったことをやろうとしている。 くしくも、私にも二歳年下の弟がいる。 母がなくなった後、私は奨学金を借り進学した。 その間、生活費は父から仕送りだ。 一方で、弟は学費を気にして高校を卒業すると就職の道を選んだ。 在学中の私はここでも何もしてやれなかった。 償いなんかじゃない。 こんなことは少しも償いなんかにはならないけれど、 あまりにも家族に献身的な彼女が…… ……羨ましくなった。 可笑しな話だと思われるだろうけど、家族のために頑張る自分を演じてみたくなった。 私は勝手に自分を彼女に重ねていた。 私は…… カーディガンを脱いだ。 手が震える。 この震えが…… 彼女が毎回抱く、覚悟だと思った。
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