眼鏡の向こう

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「……話は終わりだ。早急にデータの復旧を頼む」 部長は手短に言って私の腕を取った。 私たちの向かいでさっきまで強気だった木戸さんが言葉を失っていた。 「勝手に……終わらせないでくださいよ……。 何を言ったって、過去は消えないんだから」 彼の言葉に部長は目を細めて彼を睨みつけた。 私は部長が口を開く前に彼に言った。 「過去を消そうなんて思ってません。 私には……そんな力もないから……」 私はそこまで言うと、何だか笑いが込み上げてきた。 クスリと笑う私に彼は眉をひそめた。 「何……笑ってんの?」 私が笑った理由。 今までずっと、誰かに知られるのを恐れていたのに、 今は、誰かに…… 他でもない部長に知られたことに どこかホッとしていた。 「……何でもありません。 私からはもう……何も話すことはありません」 私は彼に言った。
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