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「布川室長、後は私が」
室長は部長を見つめると、やりきれない様子で目を瞑り、眉間に皺を刻んで髪の毛を掻き上げた。
言葉にならない想いはため息となって彼の肩を大きく揺らし、
彼の苦痛に満ちた表情が胸を締めつけた。
結局、室長は一言も発しないまま私に背を向けた。
今までずっと追いかけてきた彼の背中に涙が滲んだ。
滲む視界の中で彼の手は固い握り拳をつくっていた。
「……ごめん」
かすかに震える背中から聞こえたような気がした。
私は唇を噛みしめて首を横に振った。
もちろん、彼には……見えていない。
彼の靴音が遠退く。
もう、解除の方法やらキー操作などは全く意味がないようだ。
ドアの閉まる音がした。
その時、確かに……
何かが終わりを告げていた。
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