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何も言わずに目だけを見開く私に
部長がまたクスリと笑った。
「俺がした……最初で最後の職権乱用だ」
この部長が……そんなこと、するはずない。
だけど、そんな風に言われて私はほんの少し自惚れながら頬を緩めた。
部長は私の反応を見て笑うと、一度真顔になった後、再び穏やかな笑みを見せた。
そして、私の前髪を掻き分け、優しく撫でると、私の瞳を覗き込む。
「君の目を見るたびに黒目の向こうに揺れる悲しみが何か……知りたかった」
つい先程まで微笑んでいた目に涙がじわりと湧いてくる。
いつか室長に言われたことがあった。
私は悲しいことも、辛いことも見せようとしないって……。
実際、私も誰にも見せないように努力してきた。
けれど、部長だけは
最初から見つけてくれていた。
部長だけは……
見ていてくれた……。
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