718人が本棚に入れています
本棚に追加
◆◆
……素直に「はい」と言えないところが彼女らしい。
妙に大人びているかと思えば、時折幼い部分が顔を出す。
それが俺の中をくすぐっている。
俺は彼女をからかいながら小さな嫉妬心に大袈裟に喜ぶ自分を誤魔化していた。
自分の方が子供っぽいなんて、俺は認めない。
……総務の南田。
確かに彼女は最近よく俺の周りに現れる。
俺を上目遣いに見る目には媚びがねっとりと絡まっている。
彼女とは正反対の目だ。
「目は口ほどにものを言う」と言うが、これほど顕著な人物もいない。
目が合った瞬間から次に口から出る言葉に背を向けたくなるのだから。
彼女はさっきからグラスに口もつけずにグラスを握りしめては側面の水滴ばかり撫でている。
別に彼女の心情を弄ぶつもりもないが、男ならつい何かを確かめたくなるものだ。
「そう言えば、南田君に聞かれたよ。
『彼女はいるのかって』」
最初のコメントを投稿しよう!