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正直その後のことはあまり覚えていない。
あまりに速いスピードで進み、私の頭は、心は、少しもついていけなかった。
ただ一つわかったことは、彼が私の正式な婚約者になったということ。
「葉月、よくやったな」
それともう一つたしかなことは、父が帰りの車の中で私に放った言葉だった。
きっと私は、このときの父を忘れることはないだろう。
「葉月、よかったわね。
大学へ行かせてもらうことができて」
「はい……」
父が早めに休むといなくなったあとの居間で、母が私に微笑んだ。
「お母様……」
「どうしたの?」
「あのね……」
今日の事を話してもいいだろうか。
母に話せばどうなるだろう……
「えぇ」
母の優しい瞳を見ていると、すべてを打ち明けたくなる。
でもきっと、話したところで母は父に適わない。
ただ心配かけるだけで、結果は同じに決まっている。
私には、蓮池家へ嫁ぐことしか道はないのだとわかる。
「なんでも、ないわ……」
「……そう」
だから言わなかった、
いや言えなかったのだ。
喉まで出かけた言葉は、強く飲み込む。
その、胸に閉じ込めた思いは私を苦しくさせた。
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