あてがわれた婚約者

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広すぎるリビングに残されて一人になる。 手には渡されたブラックカードがあるが、何の魅力も感じない。 一般的にはこんな高級マンションに住めるうえ、何でも好きなものを買えるという環境は、きっとありがたく、幸せなのだろう。 羨ましいと思う人もいるかもしれない。 だが、まだ成人もしてない、恋もしたことのない私が二度しか会ったことのない人とこれから一緒に住むなんて、幸せだと、どこに思える要素があるだろう。 今はまだ朝の十時である。 彼はほぼ家で食事をとらないと言っていたから、きっと今から出かけるのだろう。 彼と会いたくない。 私は彼に会いたくなく自分にあてがわれた部屋に、駆け込んだ。 そこには淡いピンクとオフホワイトの壁紙が優しい雰囲気を出していて、家具も全てそれに合わせてある。 ベッドは一人にしては大きめだけど、白の木製のそれはメルヘンチックで可愛らしい。 そのベッドにゆっくりと腰を下ろすと緊張してたのか腰が抜けたようで、倒れ込んでしまった。 明日からどんな毎日が待っているのだろうか。 少しも想像もつかない。 きっと、幸せにはなれないだろう。 姉のように、私はなれない。 姉は周りに左右されない自分を持っていた。彼女の言葉を思い出し、私は静かに泣いた。
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