あてがわれた婚約者

3/15
21480人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
私、寿葉月は百貨店の孫娘。 知名度の高い寿百貨店のせいかおかげか、 寿という名前だけでお金持ちだと見られてきた。 寿なんて幸福な名前にも関わらず、現実は全くそうでない。 小さい頃から厳しい父と祖母は教養を身に付けさせようと、習い事に勉強を強いれられ、窮屈に生きてきた。 それに反発して叱られながら育つ姉を見ても、私は何も言えなかった。 母はそんな私を心配してくれていた。 母がいなければどうなっていただろう。 「お前は知らないが彼と結婚を望む女性は多いんだ」 私は父が怖く、「はい」と、反射で頷く。 「葉月、粗相のないようにな」 「はい……」 恋愛もしたことない私がいきなり結婚だなんてあまりにもむごい。 父が悪い相手じゃないということはきっと、お金持ちなのだろう。 どんな相手であろうが、今時政略結婚なんて時代錯誤もいいところだ。 私は愕然と立ち尽くす。 父が居間からいなくなり、母が私を抱きしめる。 「ごめんね、葉月」 母の声はひどく頼りない。 「お母様……」 母は悪くない。 悪いのはこの家なのだ。 「どんな方なの?お相手は……」 私は出来るだけ気丈に振る舞う。 「一度お会いしたけれど、凄く素敵な方よ、」 本当だろうか。 母が言うなら本当だろう。 「学校はどうすればいいの?」 今まで女子校だったが大学は共学で、恋をしたこともない私は密かに楽しみにしていた。 「大丈夫よ、心配しないの」 母の声は震えている。 私がここで泣けば母はもっと悲しむだろう。 「お母様が言うなら信じるわ」 きっと母は泣いてる。だから私は涙を堪えた。
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!