隣の田中さん

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あれ、と思ったのは何度目かの手土産を貰ったあとだった。貰った土産にはすべてどこか見覚えがあったのだ。 そして今回貰った土産でその疑問は少しだけ晴れた。 紙袋の中を覗く。それは僕が小説家になりたての頃、雑誌の依頼で書いていた旅行エッセイで紹介した土産だったのだ。 思い返してみれば今まで彼が「行った」と行っていた場所はすべて僕が行ったことのある場所だった。 例えば地元だったり、旅行エッセイで書いたところだったり、小説の舞台にしていたり、風景を描写していたり。 ここ数年は旅行どころか外にさえ出ていないのでそんなまさかと思ったが、貰った紙袋や土産の包み紙を見返してみると、一つ残らず、そうだった。 思い出すのは過去田中さんが言っていた「聖地」という言葉。
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