第1章

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※※※※田中ちゃん※※※※ 青は『進め』、赤は『止まれ』 小学校の交通安全教室でならった信号の渡り方。 でも、車の運転免許を取る為に通った教習所で小学校で習った事とは違う事を教わった。 「赤は『止まれ』、じゃあ青は? そう『気を付けて進め』だ。」 私より10歳位年上の教官がニヤニヤとしながら講義をしている。 『じゃあ黄色の立場がないじゃんか』 前の席の茶髪の高校生の背中を睨みながら、口に出さない不満をぶつけてみた。 私は田中佳苗、24歳、田舎の会社だけど一応OL。 希望通りの事務職だったけど、通勤手段が最寄り駅から1時間に1本のバスか自転車。 タクシーなんて呼ばなきゃ来ないし、街灯もないから歩きなんてとんでもない。 いつも帰りはパートのおばちゃんが車で駅まで送ってくれていたのだけど、おばちゃん3月いっぱいで辞めるって言い出したの。 で、必要に迫られて運転免許って訳。 平日は仕事しているから土日限定講習。 学生以来勉強していない私が、学科なんてなかなか頭に入らないし、女の子は得てして実技が苦手とか。 かくして、予定教習時間はとっくにオーバーし、追加料金が発生。 で、今は空き時間で、まだ受け終わっていない講義を受講中。 「いいか? 筆記は引っ掛けばかりだからな。 模擬試験たくさんやって、傾向を叩き込んどけよ!」 言ってる事は正しいかもしれないけど、人を馬鹿にした様な話し方をする教官だ。 あのにやけた顔が気に入らない。 前の高校生だって、後ろから見ても分かる様な大きなあくびをしている。 「ほら、後10分だから頑張って聞けー」 「うす」 教官と高校生の間で変な会話が交わされた。 「最後25ページ……」 まだまだ講義は続くらしい。 覚える気力がないのを誤魔化す様に、鉛筆で教科書に線を引いた。
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