第1章

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本当なら、会社で素敵な出会いがあるはずだった。 同期は私の他に3人。 でも新人研修は短かったし、みんな違う部署に配属されたから顔と名前位しか分からない。 じゃあ、今の私の部署は?というと、みんな50代。 恋話というよりもセクハラ。 キュンもドキドキも無縁の世界。 あ、悪い意味でのドキドキはあるかな? まあ、出会いを求めて教習所に来た訳ですよ。 そしたら今度は学生だらけ。 夏休みにぶつかってしまったの。 本当は夏休み前に終わる予定だったんだけど、なかなか印鑑もらえなくてさ。 特に今、講義しているあの教官が押してくれない。 ニヤケているくせに、実技には厳しい。 そして、いつも車が空いていて取りやすくて……この講義が終わったら、また2人きりでドライブだよ。 もう少し若くて、もう少しニヤケてなかったら恋愛対象だったんだけど、うん、残念。 ついでに左の薬指に指輪しているしね。 チャイムと同時に講義が終わり、皆が伸びをしている間にサクサクと荷物を片付け、次の乗車の為に予約機に並んだ。 やっぱり、このニヤケた教官しか空いてない。 免許は必要に迫られているし、ゆっくりしていると、教習所そのものの期間も過ぎてしまう。 『また御世話になります』 小さな声で呟いて、予約キーを押した。 「またお前か?田中。 今さっきも講義受けてたよな?」 ニヤケた教官が、さらにニヤニヤしながら聞いてきた。 『はい、貴方の枠はいつも空いているので』 言ったら傷付くだろうなー 教官のニヤニヤに負けないニヤニヤを顔に張り付けて 「よろしくお願いします」 と言った。 実技と言っても、路上でなく教習所内。 クランクでいつも後輪を縁石に乗り上げる。 これが印鑑を貰えない理由だ。 友達に聞いたら、教官の甘い、厳しいは関係なく禁止事項だとか。 「ブレーキ!ブレーキ! 車を降りて見てみろ。 前はこんなに余裕あるだろ。 見るのは後輪。 このままだと乗り上げるだろ?」 丁寧に教えているつもりかもしれないけど、ニヤついた顔が馬鹿にしている様にしか思えない。 『うるさいなー。 黙って隣に乗ってろよ。』 どこかのイケメンが言ったら似合いそうな言葉を飲み込んで、「あー」とか「本当だー」とか適当な相づちを打った。
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