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本当なら、会社で素敵な出会いがあるはずだった。
同期は私の他に3人。
でも新人研修は短かったし、みんな違う部署に配属されたから顔と名前位しか分からない。
じゃあ、今の私の部署は?というと、みんな50代。
恋話というよりもセクハラ。
キュンもドキドキも無縁の世界。
あ、悪い意味でのドキドキはあるかな?
まあ、出会いを求めて教習所に来た訳ですよ。
そしたら今度は学生だらけ。
夏休みにぶつかってしまったの。
本当は夏休み前に終わる予定だったんだけど、なかなか印鑑もらえなくてさ。
特に今、講義しているあの教官が押してくれない。
ニヤケているくせに、実技には厳しい。
そして、いつも車が空いていて取りやすくて……この講義が終わったら、また2人きりでドライブだよ。
もう少し若くて、もう少しニヤケてなかったら恋愛対象だったんだけど、うん、残念。
ついでに左の薬指に指輪しているしね。
チャイムと同時に講義が終わり、皆が伸びをしている間にサクサクと荷物を片付け、次の乗車の為に予約機に並んだ。
やっぱり、このニヤケた教官しか空いてない。
免許は必要に迫られているし、ゆっくりしていると、教習所そのものの期間も過ぎてしまう。
『また御世話になります』
小さな声で呟いて、予約キーを押した。
「またお前か?田中。
今さっきも講義受けてたよな?」
ニヤケた教官が、さらにニヤニヤしながら聞いてきた。
『はい、貴方の枠はいつも空いているので』
言ったら傷付くだろうなー
教官のニヤニヤに負けないニヤニヤを顔に張り付けて
「よろしくお願いします」
と言った。
実技と言っても、路上でなく教習所内。
クランクでいつも後輪を縁石に乗り上げる。
これが印鑑を貰えない理由だ。
友達に聞いたら、教官の甘い、厳しいは関係なく禁止事項だとか。
「ブレーキ!ブレーキ!
車を降りて見てみろ。
前はこんなに余裕あるだろ。
見るのは後輪。
このままだと乗り上げるだろ?」
丁寧に教えているつもりかもしれないけど、ニヤついた顔が馬鹿にしている様にしか思えない。
『うるさいなー。
黙って隣に乗ってろよ。』
どこかのイケメンが言ったら似合いそうな言葉を飲み込んで、「あー」とか「本当だー」とか適当な相づちを打った。
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