第1章

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※※※※仲山教官※※※※ こいつ、ふざけているのか? 絶対俺の話、聞いてないだろ? ハンドルを強く握ったまま、泣きそうな顔をして車のフェンダーを覗き込もうとする。 見る所は目印のポールだったり車幅だったり捲き込みだったり……少なくともハンドルじゃないのは間違いない。 ちょっと指導するとビクついて、ハの字眉になるから好き勝手な事なんて言えやしない。 「お客様」って偉ぶる奴もムカつくが、こんなに「いじめられっ子」的な対応をされるのもムカつく。 お前、俺の命を握っているのに気付いていないんだろう? いくら補助ブレーキが付いていても、俺の反応が遅れるとアウトなんだからな? まあ、わざと危ない運転をするようなやつじゃないが。 バレない様にため息をついて、最大のにこやかな笑顔で内輪差の説明をしてやる。 これ学科でも教えてやったよな? 聞いてるか聞いてないか分からない様な無反応にイラッとしながら、一旦車をバックさせ、ハンドルを切るタイミングを教えてやる。 「3番目のポールが目印だぞ。 体で感覚を覚えておくんだ。」 自分でもムチャな事とは分かっていたが、こうも第一段階で足踏みされてはこちらの指導力を疑われてしまう。 ほら、また泣きそうな顔だ。 S字は1発合格だったのに、なんでクランクだと必要以上にダメなんだ? もう5回目だぞ? しかも、今回も不合格だ。 左折は何とかなりそうだが、右折が致命的だ。 無駄に安全確認は上手なんだけどな。 クランクを抜け終わると、安心の溜め息が聞こえた。 あからさまなホッとした顔。 『時間があるから、もう1回クランク』って言いたいけど、少し気分転換させてからじゃないと同じ失敗を繰り返すだろう。 こいつの得意は……何だ? とりあえず信号機の交差点に向かわせて、踏切で止まらせる。 教えられた通りの窓開けやら安全確認は完璧だ。 本当にこいつは右折だけが……いや、この様子だと、路上にでてからも、判断が遅いかもしれない。 更に、チラチラと俺の顔色を伺う辺りが不合格だ。 「じゃあ突き当たりの交差点、右に行ってー」 不機嫌さを表情に出さない様に気を付けながら、優しい声でクランクに誘導する。 うん、一時停止も安全確認も右折方法も完璧だ。 何でこいつはクランクになると……同じ考えが何度もリピートする。
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