第1章

4/4
前へ
/4ページ
次へ
 私のペットである「宇宙」は水槽内に存在する全ての物質を食べつくした後は餓死してしまうのではないか。  そう思ったのだ。  生きているものは、生きている限り、必要なものがあることを私はすっかり忘れていたのだ。  動物には餌を、植物には二酸化炭素と水と光を。  ――宇宙には、一体何を餌として与えるべきなのか。ゴミ箱に投げ捨ててしまった説明書はもう取り戻せず、私は考える他ない。  宇宙とは一体なんなのか。餌を考えるにあたって。私はまずそこから考えることにしたのだ。  著名な科学者の言葉を借りれば、宇宙とは全ての存在と内包する空間と時間という無限極まりない存在。それが答えらしい。  では、その餌とは。  すべての物質は原子からできている。目の前の空気も、物質も、私の体も。  それなら……私の存在と、有限である時間を、宇宙に差し出してはどうか。そう考えた瞬間に、私はもう行動を起こしていた。  「※警告。宇宙を育てている最中に絶対に蓋を開けてはいけない。当社では如何なる責任も負いかねます」と説明書に書いてあった事も思い出したが、私の手はもう止まらなかった。  私は宇宙を殺したくなかったのだ。たとえ、何が起こっても。  簡単な止め方しかしていなかった特殊強化ガラスの蓋は呆気なく開かれて、私という存在はその水槽の中に吸い込まれていった。貪欲なブラックホールに私を構成する原子を餌として充分であったであろうか。  私はこうして宇宙と同化して、無限の一部になった。  そのあと、世界がどうなったのか。私には興味のないことだった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加