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何故こんなに美しいんだろう。白い肌も伏せた瞳も低く落ちつく声も、筆を握る左手の指先もみなどうしようもなく美しい。私に見えない酸素が彼には見えているのかもしれない。やめてしまえと言ってほしかった。 「その通りだ××。貴方は小説を書くのに向かない。やめてしまえ」 血管に空気を注射したら死ぬんです。「からっぽ」はひとを殺す。この代替可能な物書きもどきの、価値とは。価値とは。価値とは。星さえろくに食っていけない身で、私が書くものはなにをとらえるのか。やめてしまえよ。誰も気づかないから。 ◆ 隣のカフェに行かなくなって一ヶ月近くが過ぎた。秋を超え寒さは濃くなり、溜め息が白く曇る。 かじかんだ手におもちゃを握りながらだらだらコンビニエンスストアへ徒歩二十五分の道を歩き始めた。寝静まった家をそうっと出発し、わざわざアルバイトだなんて楽しくないに決まっていた。 午前五時半のアスファルトの上は夜中とほぼ同じ暗さで、月も見えた。街灯は途切れ途切れにぼんやりしたひかりを投げかけてくれた。 スタイラスペンを落とさないように指に挟んでおもちゃの画面を叩く。薄暗い道に長方形のひかりがともった。
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