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――分からなくても心配するな。この美術部は初心者が多い。どうせなにもかも最初から教えるつもりだよ。
私は早朝の地球を歩きつつなんとなくカフェの窓へ視線をむけて、とうに香りの消えたキンモクセイとか枝だけのさみしい桜とか、ほか名も知らない草木のあいだに見てはいけないものをちらっと見つけてしまって、無言で叫んで、そして思わず立ち尽くした。
――道具は部室のを使ってね。簡単に説明すると、これは筆でこれがパレット、あ、この紙のパレットは使い捨てタイプなんだ。絵の具をつけた紙パレットは普通の燃えるゴミに捨てちゃダメだから気をつけてな。
時計がなければ時間を見失ってしまいそうな暗い早朝に私は立ちどまって、カフェの窓ガラスをへだてたあっち側を見つめ、彼の横顔にくぎづけになった。
――んで、これがテレピン。絵の下描きをするとき絵の具をこの油で水彩みたいに薄めて使うんだよ。ある程度下描きが終わったら、テレピンの代わりに速乾メディウムを使う。絵の具へ一対一でメディウムをまぜるんだ。ぶ厚く塗れ。油絵に慣れない奴はよくやるんだけど、油絵の具をいつまでも水彩っぽく薄っぺらに描くと物足りない出来になるぞ。
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