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銀河という名前のスマートフォンが、私の綴った文章を忠実に表示してくれているのが見えた。紙に対応していないスタイラスペンが、スマートフォンになら書かせてあげるよと私をせかす。 なんでもいい、友だちより下手でも、必要とされなくても、買ってくれる人がいなくても、私が書きたいならなんでもいいんだ。例えば知らない誰かが残していった本たちと意地悪な絵描きに会いたくて、毎日通うコーヒーのお店。 どうでもいい会話なんかをしながらぼろぼろのページをめくり、絵の具の匂いの懐かしい幸福に酔う。 パソコンをいじくるのが大好きな変わった店長と、綺麗なくせに毒を吐く青年がいて、ちょっと喧嘩しながら仲よく住んでる。 そういうこぢんまりしたカフェが私の家の隣にあったとして、 一番安く一番美味しいオリジナルブレンドをほとんど毎日飲みに行っていたとして、 ある日あの空間の真ん中に、 カンバスを破く瞬間の涙の香りがし始めたとして、 それはつまり私の生活がすこぅしだけ、すこぅしだけ変わるってことを意味した、想像の物語だった。
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