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「死ぬ確率は一生に一度だけだろう。臆するな、挑め」
と、そう彼は言う。
彼にしてはやわらかいもの言いだ。ペインティングナイフで容赦なく絵の具を切り裂き、ついでに私を言葉で刺しながらカンバスに無音の風を起こしている。
私はといえば、数週間進まぬままの卒業論文を抱えて頭も同時に抱えている。ほかにも問題をひとつやふたつ抱えている。
ふむ。
「怖いんじゃなくて、やる気がわかないだけですよ」
「貴方はなにに対しても無気力だな。上手に呼吸できているか? まだ死んでいないところを見ると、心臓を動かすやる気はそれなりにわいているらしいな?」
「いやあの意味分かんないんですけど……生きてますって」
「それは残念だ」
「……。ただ私が言いたいのは、なにかを書きたいって気持ちが遠のいちゃってるってことなんです。卒論のストーリーは全部決まってますが、一文字も進みません」
「卒論をサボる言い訳作りで大忙しか」
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