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初めましての代わりにしては不躾なことをのたまう綺麗な青年が立っていた。否、ほんとうは綺麗なんてものじゃなかった。この手の生物は私の苦手とするところだった。手紙をテーブルへ伏せた。
コースターとグラスを置く彼の横顔はギョッとするほど冷たい美しさだ。美しいは冷たい。私は丁寧な言葉づかいに動揺を隠してそっと挨拶を吐き出した。
「初めまして。新しいアルバイトの方ですか? 此処のアルバイトなんて初めて見ました」
「いや、いそうろうだ。昨日越してきた」
「そうなんですか。どうも」
コーヒーを受け取って口もとへ。高校時代の楽しかった部活を思い出してかすかにさみしいような悔しいような不安な気持ちになった。
カフェの中央には昨日までなかった道具がいきなりたくさん並べられていて、イーゼルやらパレットやら油壺やらあの独特な美術部の匂いが懐かしくただよった。
ぎゅ、とこころは急激にしぼみきり、私の情けなさを代表する茶色い封筒がその途端気狂いじみた笑い声をたてた。
甲高い悲鳴が耳を荒々しく引っ掻きまわす。
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