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私は白っぽいカンバスを一瞥した。 「また違う絵を描いていますね。昨日の紺色のはもう完成したんですか」 「正気か? 乾かすためにほかの絵を描いているに決まってる」 ぶぶぶ、と左手の中で執筆道具がからだを震わせた。五月中旬母校で一緒に教育実習をした元同級生たちがlineにて文化祭の集合時間と場所について相談し始めた。もちろん私は行かない。油断していると誰かと挨拶を交わすことさえ億劫になっていく。 晩夏のうだるような、退廃しきれない絶望みたいな、そういうものにのまれてしまうんだ、ひかりにはどのみち追いつけない。私をいないことにしたかった、とてもそう、したかった。 ――そんなこんなで彼と出逢ってから二ヶ月が経とうとしている。 ◆ 好きな色。1、紫。秘密めいた魅惑の色。凛とした強さ。私に無いもの。2、透明。在るか無いのか確かでない曖昧さの魅力。透き通った切なさのような。3、紺。青と黒の真ん中あたり。宇宙。 十月は少し遅めの新学期初日で、シルバーウィークを通り過ぎてしばしという平日らしい朝だった。
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