第1章

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自分達がバナナにショックを受けている間にも菅先輩は不動産屋と交渉し、なんとその週末には隣の部屋に引っ越してきてしまったのだった。 久しぶりの休日なのに隣が騒がしいな、もう住人が決まったのかと思っていたらインターホンが鳴った。 どんな奴だろうと思って扉を開け、固まった。 「じゃ、そういうことだから、よろしく」 と笑顔で「いいね!」する菅先輩が目の前にいた。 こちらの反応など、もちろん全く気にする様子はない。 既に引っ越しは完了したそうで、引っ越し作業は菅先輩と同じM1の先輩達が手伝っていたらしく、 「お前んち、近くていいなあ」 「部屋きれいにしてんだな、片付いてる」 と、菅先輩の後ろから覗きこまれた。 勝手に覗かれることには抵抗があったが、知らなかったとはいえ、先輩達が働いている横で寝ていた手前、何も言えない。 「自分も手伝えば良かったですよね、すみません」 「大丈夫よ、荷物少なかったしすぐ済んだから」 あ、なんか想像できる自分がいる。 極端に片付いている研究室の先輩のデスクが頭に浮かんで、少し笑ってしまう。 そんな自分に過敏に反応してか、 「おい、菅に何かあったらどうなるか分かってるな」 と正木先輩が凄んでくる。 「何もありませんよ…」 どうやらM1の先輩達には、一周回って菅先輩が可愛く見えているらしいのだが、特に、正木先輩は菅先輩のことがお好きなようで、いつも菅先輩を手取り足取りサポートしている。 残念ながら菅先輩には迷惑がられていらっしゃるけれど。 今回の引っ越しも、いつものように正木先輩が主導で他の先輩を巻き込んでのことだったんだろう。 たしかに菅先輩は美人だ。 いつもシャツにジーパンというお決まりの格好だし、化粧っけもなく眼鏡に髪は一つにまとめただけだけど、飾らない分よけいに元が美人なのがよく分かる。 160cm後半くらいかと思われる身長にスラッとした体型なのも、シンプルなコーディネートが決まる理由なんだろう。 大学のミスコンにも何度も推薦されているそうだ。 本人は無視を決め込んでいて、正木先輩の妨害も手伝い、実際にエントリーしたことはないらしいけれど。 自分も、同回生も、初めて会ったときには、こんなところにこんな美人が…と感嘆したものだった。 それが今では、世にも珍しい珍獣、いや宇宙人と接しているような気分だ。 そんな宇宙人の普段の行動を、少し紹介してみようと思う。
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