第1章

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菅先輩は、ぶら下がり健康器にただぶら下がるだけではなく、腰を左右に捻ったり、時には懸垂したりと運動にも使っている。 「日がな研究室に籠りきりで運動もしないと、ぶくぶく太っちゃうでしょ」 身だしなみにはそれほど気を使わない菅先輩が体型だけ気にするのは、バイトでモデルをしているからだ。 それも、ヌードモデル。 大学の近所にある絵画教室で、週に1度のデッサンモデルをしているらしい。 「黙ってじっとしていればいいだけだから、慣れれば楽なもんよ。服も化粧も笑顔も必要ないからねね」 若い女性がそんなことを…とは思うけれど、短時間でそれなりの収入になり、頭の中は完全に自由だというのは研究に打ち込みたい菅先輩には好都合なんだそうだ。 「その教室はじいさんばあさんばっかりだよ。若い奴は身分証求められて、うちの大学だと分かれば門前払いだ」 以前、モデルの噂を聞いてうちの男子学生が押し寄せたせいだそうで、そう語るのは正木先輩だけど、なんでそんなことまで知っているのか、押し寄せた中に正木先輩は居なかったのか気になるところだけれど、怖くて聞けない…。 体型に気を使う分、摂取カロリーや栄養素は気にかけているようだけれど、食事の内容自体は酷いもんだ。 先輩はビタミン摂取のためにと、大学近くの果物屋を行きつけにしてよく買いに行っている。 ただ、果物屋で買ってきたまま、水洗いだけして丸かじりするのはどうかと思う。 はじめの頃は、売られていた時の透明のケースをそのまま皿にして苺を食べているのを見て豪快だなあと思ったけれど、そんなのかわいいもんだった。 林檎や梨だけでなく、キウイまで丸ごと丸かじりしていたのには思わず声が出てしまった。 「皮も食べられるし、皮こそ栄養があるのよ、知らないの?」 調べてみると、本当にキウイは皮も食べられることが分かったけれど、自分は今まで通り、半分に割ってスプーンで食べる方がいい…。 バナナだって皮が黒くなり始めたら早めに食べようと普通思うだろう。 食べあわせも全く気にせず、納豆とラーメン、シュークリームを同時に食べていたし、 (まず研究室で納豆を食べないで欲しいけれど…) 珍しく弁当を作って持ってきていた時、ふりかけをかけ忘れたからと、研究室にあった誰かの土産の煎餅を割り、乗せて食べていたのも忘れられない。 「お茶漬けの素にあられ、入ってるじゃない、一緒よ」 そう思えるのはあなただけです…。
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