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楠木 正司 くすのき しょうじ 新宿二丁目にあるバーのマスター。 若い頃にはホストの経験もある容姿端麗なモテ男。だのに誰の誘いにものらない。 寡黙で客に対しても「いらっしゃいませ」と「ありがとうございました」以外は最小限の言葉しかつかわない。突っ込んだ質問やジョークに対しては、ほとんど魔性の微笑みで、いなしてしまう。 30代半ば。この業界では青二才と呼ばれる中、毎年業績を伸ばしている。商売上手。 店の三原則は、「ケンカしない」「金の貸し借りをしない」「ヤらない」。 ガラの悪い客には決して店の敷居をまたがせず、常連からの人望も厚い。 最近、雇い入れたピアニストに密かな恋心を持つ生粋のゲイでもある。(ホスト時代はかなり無理をしていた) そんな彼を二丁目に店を持つ連中は一目置いていた。 二丁目界隈でそのマスターの存在を知らないものはなく、悪く言う者もなく、高嶺の花と称されていた。 学生時代は陸上選手で、恵まれた体躯とセンスでインターハイ・インカレで入賞もしていた。 身長180センチちょっと。体重78キロ。スリムなイイ身体にいつでも隙の無い洒落た服装。 ノンケの男でも抱かれたくなる色気と雰囲気のあるイケメン。 でも、のちに恋人(戸籍上親子)になるピアニストにだけはめっぽう甘く、言葉も饒舌になる。 百戦錬磨のエロテクニックに若い恋人は翻弄されるばかり。 カウンターの中にマスターがいるだけで、その店の雰囲気が変わる。 マスターのかもし出す雰囲気に、微笑みに。酔わされたくて客が集まってくる。 趣味は独学で覚えたピアノ。たまに恋人と自宅のピアノ連弾を楽しんだりする。 恋人との話すとき、語尾に「かい?」と付くことが多い。「そうだったのかい?」など。 若いときに大恋愛をした相手と悲しい別れ方をしていて、長年引きずっていたが、ピアニストの恋人に、心から救われている。 バーの店名は「白芥子」(しらげし)。 芭蕉の句「白芥子に 羽もぐ蝶の 形見哉」にちなんだもの。 マスターが昔の恋人を思ってつけた店名。 句の意味は「白い芥子の花にとまっていた蝶が飛びたつとき、一枚の花びらが落ちた。それはまるで芥子の花との別れを惜しんだ蝶が、形見にと自分の羽をもいだようだ」となる。 この句は作中のキーになる。
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