1.その少年は荒野から来た

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「や、やめてください……」  コンクリートブロック塀を背に当てられて、少女は恐怖に身を固くした。  彼女を囲んでいるのは少年たちの集団。  丈を短く改造した学ランを着て、髪型はリーゼントのポンパドールやらモヒカンやら、剃り込みやら。  絵に描いたような古典的な不良像だ。 「そんなつれないこと言わないで俺たちと遊ぼうぜぇ! キミうちのガッコの娘だよねぇ? どこのクラス? お近づきになろうよ?」  口に含んだガムをくちゃくちゃさせながら、リーゼント少年が笑う。  通り掛かりのサラリーマンが見かねて足を止めたものの、少年たちに睨まれ、そそくさと退散した。  この街に住んでいて、彼らの存在を知らぬ者はいない。  彼らは不良校と名高い、荻叉須高校に通う学生だった。 「なあなあオレたちとイイことしようぜぇ」 「い、嫌……!」 「なぁにぃ? 聞こえないなぁ? もっと大きな声で聞かせてよぉ、その可愛い唇でさぁ」 「アヒャヒャヒャヒャヒャッ!」  傍若無人に振る舞う不良たち。  少女の方は声がかすれ、今にも泣き出しそうな様相だ。  しかし道行く人々は、それを横目に無言で通り過ぎていく。  彼らにしても荻叉須高校の連中とは関わり合いたくないのだろう。皆一様に下を向き、息を殺して去っていく。  不良たちもそれを承知なので一切の躊躇いがない。  まさに町人の前で好き放題暴れる時代劇の悪役武士さながら、彼らの横暴は止まるところを知らなかった。  しかし、そんな彼らの背後に一つの陰が立ち上がる。 「やめろォー↑」  少年の上ずった声が、晴天の空の下に響き渡った。  声の主、鶴来丈司(つるぎ・じょうじ)は赤面していた。  格好良く登場するつもりが緊張して変な声になってしまった……。  出来ることなら、今のは聞いていなかったことにしてもらいたい……。 「やめろ、お前ら! その汚い手を放せ!」  咳払いを交えつつ。丈司が今一度、叫び直す。  今度はちゃんと言えた。 「はぁん? 誰だ、テメェ?」 「なぁに出しゃばってきてんだ、クルァッ!」 「声、上ずってんじゃねぇぞ、オラァ!」  やはり聞かれていたようだ。  ちょっと死にたいと、丈司は思った。 「テメェ俺たちが天下の荻叉須高校だと知ってんのか、あぁん!? ヤキィ入れられたくなけりゃすっこんでろや、ゴラーッ!」  モヒカンの不良が丈司の胸倉を掴んで凄む。
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