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「や、やめてください……」
コンクリートブロック塀を背に当てられて、少女は恐怖に身を固くした。
彼女を囲んでいるのは少年たちの集団。
丈を短く改造した学ランを着て、髪型はリーゼントのポンパドールやらモヒカンやら、剃り込みやら。
絵に描いたような古典的な不良像だ。
「そんなつれないこと言わないで俺たちと遊ぼうぜぇ! キミうちのガッコの娘だよねぇ? どこのクラス? お近づきになろうよ?」
口に含んだガムをくちゃくちゃさせながら、リーゼント少年が笑う。
通り掛かりのサラリーマンが見かねて足を止めたものの、少年たちに睨まれ、そそくさと退散した。
この街に住んでいて、彼らの存在を知らぬ者はいない。
彼らは不良校と名高い、荻叉須高校に通う学生だった。
「なあなあオレたちとイイことしようぜぇ」
「い、嫌……!」
「なぁにぃ? 聞こえないなぁ? もっと大きな声で聞かせてよぉ、その可愛い唇でさぁ」
「アヒャヒャヒャヒャヒャッ!」
傍若無人に振る舞う不良たち。
少女の方は声がかすれ、今にも泣き出しそうな様相だ。
しかし道行く人々は、それを横目に無言で通り過ぎていく。
彼らにしても荻叉須高校の連中とは関わり合いたくないのだろう。皆一様に下を向き、息を殺して去っていく。
不良たちもそれを承知なので一切の躊躇いがない。
まさに町人の前で好き放題暴れる時代劇の悪役武士さながら、彼らの横暴は止まるところを知らなかった。
しかし、そんな彼らの背後に一つの陰が立ち上がる。
「やめろォー↑」
少年の上ずった声が、晴天の空の下に響き渡った。
声の主、鶴来丈司(つるぎ・じょうじ)は赤面していた。
格好良く登場するつもりが緊張して変な声になってしまった……。
出来ることなら、今のは聞いていなかったことにしてもらいたい……。
「やめろ、お前ら! その汚い手を放せ!」
咳払いを交えつつ。丈司が今一度、叫び直す。
今度はちゃんと言えた。
「はぁん? 誰だ、テメェ?」
「なぁに出しゃばってきてんだ、クルァッ!」
「声、上ずってんじゃねぇぞ、オラァ!」
やはり聞かれていたようだ。
ちょっと死にたいと、丈司は思った。
「テメェ俺たちが天下の荻叉須高校だと知ってんのか、あぁん!? ヤキィ入れられたくなけりゃすっこんでろや、ゴラーッ!」
モヒカンの不良が丈司の胸倉を掴んで凄む。
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