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彼らは決して、いきなり暴力を振るったりはしない。
まずは威嚇。
これで相手をビビらせ戦わずして勝つのが不良のセオリーだった。
こうすることで無駄な労力を省くと共に、本当はそんなに喧嘩が強くないのを仲間たちに悟られずに済むのだ。
しかし丈司は怯むどころか、むしろ好戦的に相手を見上げて。
「知っているも何も、僕だって荻叉須高の生徒だ。そして、きみたちよりアウトローだ」
「はぁ?」
「女の子に手を上げるのはアウトローのすることじゃない。今すぐ解放しろ。でなければ僕も“本気”を出さねばならない」
モヒカンの腕を振り払い、堂々と啖呵を切ってみせたのだ。
これには不良たちも沈黙し、顔をしかめる。
そして誰かがプッと吹き出したのを合図に、一斉に笑い飛ばした。
「ギャハハハハハッ! 本気だってよぉ!? 本気ってどんな木だよぉ?」
「気になる気になる木ぃ?」
「アヒャヒャヒャヒャヒャッ!」
横吹きの雨のような勢いで唾を吐きかける不良たち。
丈司は小柄な少年だ。一見して、喧嘩が強そうにも思えない。
数の上でもこちらが有利とあっては彼らの反応は当然だろう。
「じゃあ見せてくれよぉ、お前の本気ってヤツをさぁ!」
しかし彼らは気づいていなかった。
丈司の言葉が伊達や酔狂ではないことに。
「僕の本気は――」
不良たちの眼前に、丈司が右手を突き出す。
戦意をアピールする握り拳? ――否、それは丈司の自信の根拠だった。
彼の右手は何かを掴んでいる。
目には見えないが、確かに手の平に伝わる、鉄の重み、感触。
それは透明のリボルバー拳銃だった。
「ぐえっ!?」
空気を裂く破裂音と共に、リーゼント少年が崩れ落ちた。
銃声が聞こえるのは丈司の耳の中だけだったが、確かに相手は身体をくの字に曲げ、尻餅をついた姿勢で絶叫する。
「なんじゃこりゃあぁぁぁっ! 痛ぇよ! 痛ぇよぉぉおおおっ!」
強面の不良が涙を流し、その場で転げ回って泣き叫ぶ。
あまりに異常な光景に、他の不良たちも戸惑いを隠せなかった。
「お、おい、なんだ今の……」
「まさか!」
顔を青ざめさせる。
「「「コイツ! 思念銃を使いやがったんだ!」」」
不良たちが声を揃えて叫んだ。
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