隣家の秘密

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 家に戻り、縁側に座りながらひとしきり考えた。  田口さんの奥さんは笑って許してくれたけど、人様の庭を勝手に掘り返すなんて……警察を呼ばれてもおかしくない。  小さな庭を見ながら思った。  自分がそうだからって、田口さんもそうしたに違いないと……結局、思い込んでいただけだろう。  まったく……。  深く反省していると、ここ数年ずっと鳴ったことがなかった電話が突然鳴り出した。  俺はギョッとしてテレビの横にある電話を振り返り、おそるおそる受話器を取った。 「もしもし……?」 『もしもし? 誰? お兄ちゃん? 杏子だよ!』 「え……? きょ、きょうこ?」 『うんうん。お兄ちゃんなの? なんか声が変わった? あ、今ね成田に着いたところなの! 今から家行くね! みんな元気?』 「お、おう。元気だよ……それにしても急だな」 『あはは。ごめんね! 国際電話ってお金かかるからさー。でも、お土産いっぱいあるから、楽しみにしててよ!』 「一人なのか? 家族は?」 『一人……ってゆーか、別れたの。ま、それも、着いてから話すよ』  俺は呆れて受話器を置いた。  自由奔放過ぎるだろう。いったいどういう育ち方をしたんだ。  居間においてあるアルバムを開く。  杏子、杏子……こいつか。いかにもやんちゃそうな顔だ。ったく。話が違うじゃないか。行方不明も同然って言ってたのに……。  さて、どうしたものか。ご近所の目は誤魔化せても、妹の目は誤魔化せまい。いくら十年ぶりだったとしても……。  一難去ってまた一難。だな。  もう一度アルバムに目を落とす。  成人式の杏子の写真は細くてなかなか美人だ。  体型もアメリカナイズされてないといいけどな……してたら重労働になる。  色々考えながら押入れから介護士時代の白衣と、ネームプレートを引っ張り出した。  白衣のポケットから紐を取り出し強度を確かめ、紐の端っこを親指で挟み、手の甲にクルクルと巻きつけ丸めると、もう一度ポケットへ入れる。 「ふう」  やはり人生……何もないのが一番しあわせだ。 完
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