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目の前にいたのは爽やかな黄色のワンピースを着た田口さんの奥さんと、息子くん。
「あれ? え……?」
俺は目を丸くして穴の中を見た。それからまた奥さんを凝視する。
奥さんじゃない……? じゃ、誰?
奥さんも俺の後ろにある穴に気づいた。
「それは……なんですか……?」
奥さんは目を見開き、青ざめた顔で俺を見た。
「すみませんでした!」
豪華で広すぎるリビングのソファに座ったまま、俺は奥さんに深々と頭を下げた。
「いいえ。ビックリしましたよね。私でも夜中にそんなの見ちゃったら、もしかして? って思うかもしれません。アイスコーヒー、どうぞ飲んでくださいね」
「ありがとうございます。……いやぁ、本当に、警察へ相談しなくて良かったです」
「主人が悪いんですよ。いくら結婚前からずっと可愛がっていた犬だからって、ちゃんと動物用の火葬だって今はあるのに。そのまま庭に埋めちゃうなんて。まったく。お墓でも作るつもりだったのかしら」
「はぁ……田口さんのワンちゃんだったんですね」
「あの人も息子も犬が大好きで。でも、だいぶおじいちゃんだったんです。散歩もほとんどしてませんでした。最近は寝てることが多くて。でも、里帰りしている間に死んじゃうなんて……息子も泣きつかれて眠ってしまいました」
奥さんもお子さんも殺されてなかった。とんだ勘違いだった。庭に埋葬されていたのは田口さんが高校生の頃から飼っていたワンちゃんだった。
「里帰りですか。だから……。最近、お見かけしないなって思ってたんですよ。勘違いしちゃって……本当に申し訳ないです」
奥さんは恥ずかしそうに首を横に振った。
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