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「大竹さんには聞こえていましたよね? 私たちの……夫婦喧嘩の声」
「あ、はぁ……まぁ、でも、たまには喧嘩もしますよ。どこの家庭でも」
「恥ずかしい話なんですけど、夫が浮気をしてまして。子どもを連れて実家へ帰っていたんです。でも謝ってきたので、やり直そうと思って戻ってきました」
「そうなんですね。雨降って地固まる。いいじゃないですか」
「でも、まだ心から信用しきれてなくて不意打ちで帰ってきたんです。もしかして、他の女を連れ込んでいるかもしれないじゃないですか?」
「なるほど。で、そっと庭に入ってきたんですね?」
「ふふふ。そうなんです。ホントに恥ずかしいわ」
「いえいえ。わたしこそ、お恥ずかしい」
「お互い様ですわ。主人には私が掘り返したと言っておきます。それでちゃんと火葬場へ持っていくよう説得しないと……はぁ。まったく困った人だわ」
「ははは……」
「ふふふ」
煩わしい人間関係は苦手だったが、田口さんの奥さんはサバサバした気持ちのいい人柄をしていた。少しだけど話せて良かった。それに田口さんが殺人犯じゃないと分かって本当に良かった。
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