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「あー。神谷静ねー」
夜になり、観月が調理室に降りてきたところを捕まえて、晴海は今日のことを話した。
「神谷は幼稚舎の時から秋晴副会長一筋でやって来たからな。どんな時でも裕翔先輩、裕翔先輩!て。あれだな。金魚のふん」
「金魚のふん・・・」
なんだか例えが可哀想に思える。
「白井も馬鹿だな。高臣くん、大丈夫だとは思うけど何かあったら言うんだよ?俺は秋晴副会長のこと尊敬も敬愛も崇拝もしてないけど、やっぱり人気あるからさ」
冷蔵庫から野菜などを取り出して夕飯の準備を始める観月。
それを冷蔵庫の間の椅子から晴海は見つめる。
「本当なら僕なんかが通える学園じゃないですし。すごい山奥ですし。なんで僕ここにいるんだろうって…」
「まあ防犯上山奥ってだけで具体的なことは関係者しか知らないからな。幼稚舎と初等部を分けてるくらい警戒してる。
あと高臣くん。僕なんかが、とか言ったら駄目だよ」
観月が手を止めてまっすぐな瞳で晴海を見る。
「秋晴副会長はふざけた性格だけど、人を見る目はあると、思う。あくまでも思う、だけど。その秋晴副会長が高臣くんをここに入れた。高臣くんが自分を下げるってことは必然的に秋晴副会長を下げることになるんだよ」
「は、はい」
「高臣くんの回りにいるのは強いぞ?家柄的に秋晴副会長、冬矢会長はこの学園でツートップ、俺も悪くないし、物理的力では同室の政宗はオリンピックに出られると言われてるほどの武術の持ち主だし」
「政宗が・・・・」
「何かあったら周りに頼れ。頼られても俺たちはなにも困らないから。な?」
「はい」
晴海が頷いたのを見て観月が再び調理に取りかかる。
「もうすぐ半年か・・・」
観月が呟く。
「え?」
聞き取れず晴海が観月を見ると、何でもない、と観月は微笑む。
その笑顔がなぜか悲しそうに見えた。
「晴海。今日は地中海風カレーだぞ」
「わーい、僕カレー大好きです」
観月の指示で晴海は皿の準備を始める。
その後ろ姿を見る観月の目には、悲しげな影が浮かんでいた。
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