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街の一角…というにはあまりにお粗末な場所。もしかしたら良からぬ連中が女をナンパしていたり、酔いどれた人が寝ているかもしれない裏路地。
そこにある雑居ビルに入ったお店が仕事場だ。
「ぎゃんぶるや」
日々一夜限りの賭け事を楽しむ場所ではあるが、一般的なスロットマシンやトランプ、ルーレットは全く置いていない。
俗に創作ギャンブルと呼ばれるギャンブルを扱っており、どこかの社長だと語る人から、富豪の息子だと騙る大学生まで様々なギャンブル・ジャンキーが、猫の額程の店内に詰め掛けている。
運野好機(うんのコウキ)は、そんな「ぎゃんぶるや」で働く店員の一人であるが、彼が最も得意とするギャンブルは「ダイス勝負」である。
黒と白を基調とした「ぎゃんぶるや」の制服に身を包み、ワックスで固められた紅髪は、髪の毛で目が隠れる程で「フロン毛のコウキ」として常連の間では有名な存在である。
合格率5%と云われる難関「星運学園高校」(通称:運高)を卒業した彼は、同世代が次期社長として日夜社会で頑張っている中「ぎゃんぶるや」の店員として働いているのである。
彼の得意とする「ダイス勝負」は6面や20面の普通のダイスではなく、0~999の目が出るネットRPGではよく見る(存在はするがモノはない)ダイスを使い、サシの勝負をしている。
「好機!勝負じゃあぁっ!」
怒号をあげてリベンジするお客は多く、一日一回は必ず酒に酔った客の相手をする。
「何を賭けてくれる?」
賭けの対象はお金だけではない。
時間・寿命・気持ち・頭脳…etc。とにかく本人が持っているモノなら何でも賭けの対象となる。
「儂の寿命を3年賭けるぞぉっ!」
「グレェトだね♪勝負しようかっ」
グレェトだね♪は、彼が挑戦を受け取った証である。
ダイスを振るだけなので、勝負はものの10秒で終ってしまう。
「僕の勝ちだね!寿命をいただくよ♪」
寿命をいただく。簡単に言っているが、そんな事を出来てしまうのが、彼が有名になった理由だった。
彼の蒼い瞳が光ると、その支払いは完了する。
コウキにとっては、神から与えられたコウキだけの能力と信じている。
高校でありとあらゆる運を試されて、首席の成績で卒業した彼は、こうして「ぎゃんぶるや」で日々その腕を磨いているのだった。
「君が運野好機か?」
どどめ色の瞳をした彼を見ると、感じた。
同じ種類の人間だ!
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