前半戦

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 ギューッを目を閉じスーハーし過ぎの息を止め、空気の塊をグッと飲み込んだのを大袈裟に吐いた。  せっかく大丈夫って、せっかく一緒にって、せっかく洗ったげるって来てくれたんだ。諦めなきゃって突き離そうと思ってた決心が揺らぐ。  クソッ! クソッ! クソッ!  妙な期待はすんな優斗。どうせ彼女は俺と家族みたいな感覚で風呂ってだけなんだ。  風呂場で、その、イチャイチャとか……萌えタッチとか……ツンツンとかサワサワとかそんなの、ちーーーーーーーっとも考えてなんかないから俺と風呂が平気なんだよ!  ギュウギュウに閉じた目の奧で必死にエロ煩悩を打ち消す。  本当は『出て行け』って言いたいんだけど。そんなの心配して頑張ってバスタオル1枚になった彼女に対してかなり失礼だと思ったから言えない。 「スポンジと石鹸はー、あ、優ちゃんトコはボディソープだー」 「うん。なんか母さんがコレのファン?」 「いいなー。私のトコは固形石鹸だよー」  そーなんだ、固形石鹸。もちろん別の家なんだからそれぞれの……ハルカもここで洗ったら俺と同じ匂いになるのか。  俺とお前が、同じ匂いに包まれる……ちょ、変な想像すんな。石鹸の匂いだよ、弱酸性の匂い!  なんかもう、これだけでパニックとか山盛りチキンげふんげふん。  なのに後ろのハルカは至って静か。なんでお前は冷静なんだよっ。  俺は今すぐテニスの熱いオッサンみたく叫びながら町内ダッシュしたいくらいテンパってんだけど!
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